伊勢いもに懸ける想い 令和2年度品評会金賞受賞
粘りとコクが特徴で栄養価も高い多気町の特産品伊勢いも。贈答品として人気があるほか、料理店や高級和菓子の原料としても出荷されるなど地元の誇る逸品です。今回は令和2年度の伊勢いも品評会で金賞を受賞された多気町在住の森下敏さんにお話しを伺いました。
森下さん(86)は3代目となる伊勢いも生産者。企業に勤めながらの兼業農家を続けられてきましたが、ご両親が高齢になってきた50歳代の頃から自身が主体となって取り組んでいき、定年退職を機にその労力を伊勢いもへ注ぎ込んでいきます。「祖父が初代で両親も栽培していました。昔はこの地区の世帯はみんな伊勢いもを作っていましたよ」と語ります。
多気町津田地区は櫛田川水系に恵まれた肥沃な圃場で、伊勢いも栽培には最適な土地。他の場所で栽培すると別の芋に変わってしまうと言われるほどの繊細さは、特産品と呼ばれるにふさわしい農産物です。地元自治体である多気町も、伝統野菜を守ろうと後継者の育成支援やバックアップ体制にもかなり力を入れているほか、相可高校生産経済科でも伊勢いも栽培の実習を積極的に取り入れているなど官学連携も盛んです。
「糸を置いてつる分けをすることを初めて取り入れたのですよ」と森下さん。この理にかなった方法はやがて周囲の農家全てが取り入れていくことになったそうです。「伊勢いもは他の農産物に比べるととても手間がかかる。機械化できる作業が少なくて、暑い夏場の作業は本当に大変。収穫までの期間が永いことも苦労が多い」と語ります。「この圃場で採れる伊勢いもは昔から白くて質が良く、特に伊勢いも栽培に向いているように感じる。だから苦労はするけど力を注ぎたくなる」とも。しみじみと語る口調に重みを感じます。
「一番嬉しいのは、収穫した時に理想の伊勢いもを掘り出した瞬間ですね。全ての苦労が報われる瞬間です」と森下さん。息子さんが後を継ぐため、一緒に作業をしていることも楽しみなようで「作業は手間もかかるし大変だぞといつも話している」と語りながらも優しい笑顔に。これまでも品評会で度々表彰を受けてきた森下さん。いつまでも理想の伊勢いもを作り続けて欲しいですね。
Photo:多気町 森下 敏さん 2021.10